■ ご 挨 拶      
           
 文部科学省21世紀COEプログラム「日本漢文学研究の世界的拠点の構築」(平成16年度採択)は、平成21年3月をもって5年間の補助事業は終了いたしました。

  この研究活動をとおして、我々は全国的な資料調査を実施し、日本研究に資すべき漢文著作・漢文資料が、予想以上に豊富な埋蔵量を有し、活用が待たれているという認識を新たにいたしました。 また一方、昨今の言論界では、従来の和文資料中心に形成された日本像は主観的・情緒的なものに傾斜し、正確な日本像を描いてきたかという根本的な問題が提起されつつあります。
  我々が21世紀COEプログラムを展開する過程で、その問題のよって来たる所以がいかなるところにあるのか、次第にその輪郭をあらわしてきました。

  今後は、この研究成果をもって 「日本漢文資料による日本像構築の国際的研究」 として再出発することといたしました。
  そこで第一に、日本漢文資料を利用して、これまでに見逃されてきた新たな日本像を構築するために、狭義の漢文学にとどまらず、歴史・思想・科学など多方面の漢文資料を教育研究の対象とし、またそのための利用環境を整備いたします。
  第二に、従来の先入観にとらわれることを排除するために、日本人研究者 のみならず、外国人研究者にも広く日本漢文資料の利用を呼びかけ、そのための基礎学力の養成として、訓読能力の開発を行なっていく所存であります。

  皆様方の 更なるご支援・ご協力を賜りますよう  お願い申し上げます。

                              

                                                 

     
    

 推進室長 佐藤 進

       

 

● 推進室の概要      
                                                
     日本漢文教育研究推進室      

「日本漢文資料による日本像構築の世界的研究」

     
       
  本推進室のいう日本漢文学は、広く日本人の手になる漢字漢文による著述等の文献資料を対象とする学問である。対象の範囲は、漢詩文等の文学作品や、記録類の史学文献に止まらず、仏典・仏書、天文暦法、医書・本草等々のあらゆる分野の文献を含んでいる。
  もともと固有の文字を持たなかった日本人は、中国の漢字漢文を学んで中国の学術文化の摂取を行ったが、やがて訓読という読解方法を生み出し、中国の学術文化の吸収は飛躍的に対象の範囲を拡大すると同時に、日本人みずからの漢字漢文による著述を大量に生み出した。

  前近代の日本では漢字漢文文献は、日本の学術文化の根幹を成すと言って少しも過言ではない。いわば、日本文化を研究するのに日本漢文の知識は必須であり、日本研究の基礎でもある。 この点、国内外の日本研究者から日本漢文研究の充実と研究者の養成がつよく望まれているのである。

  しかるに、明治以後の急速な近代化にともない、これらの日本漢文資料の研究はしだいに無視され、文献資料類の埋没・散逸も著しい。今のうちにそれらの資料類の徹底的な調査を行いデータベース化することが急務であり、その情報を国際的に共有することが待望されている。

 それら日本漢文資料の研究により、これまでかな文字資料によって形成されてきた日本文化観を一新することが最終的な目標である。
     
           

    T研究者・指導者の養成

     
  @国外向け講座として、国外集中講義・ネット授業を実施する。      
  A海外拠点コーディネーターの推す在日外国人日本漢文研究者(留学生・研究生を含む。)の研修を実施する。
(大学院にて日本漢文学を研究する外国人院生の訪日研修を含む)。
     
  B国内向け講座として、大学院に日本漢文研究コースを設け、将来的には日本漢学専攻を設置し、大学院科目と連動しつつ、文学・芸術、歴史・思想、科学史、書誌学、訓読研究などのジャンルのもとに若手日本漢文研究者の育成をはかる。      

    U 社会教育としての漢文教育の研究と実践

     
  上記の@とは別に、現職国語教員漢文ワークショップや社会人向け公開講座を実施する。      
       

    V 日本漢文資料の研究

     
  「文学芸術」班
日本文学やそれに関わる芸術・芸能に関する資料が、正史 をはじめとして、概ね漢文で書かれていることに鑑み、それらを集積して注釈を加えるなどの基礎作業を中心に研究教育の基盤を整備する。その際、日本の文学芸術資料の成立を支えた中国古典文献の有り様の分析研究が、資料の読解整理にあたって不可欠のものとなろう。また、日本近代文学における漢文の役割も、最近やっと認識を新たにするところまできたが、その研究内容を豊かにすることが期待されている。
     
  「歴史思想」班
我が国のみならず、漢字文化圏すべての歴史の局面や思想形成において、漢字漢文の果たした役割を検証することが任務となる。特に近年盛んな近代の社会や文化形成における漢文の役割の検証については、多方面のジャンルから総合的に展開したい。それでこそ、たとえばこれまでの文学作品詞華集を教科書として使う状況を乗り越える教育が可能となる。
     
  「科学史」班
とりわけ医書を中心とした書籍の整理と研究を推進し、古医書の読解に役立つ教学体系をうちたてることが必要とされる状況に対応する。
     
  「書誌学」班
21世紀COEにおいて蓄積した日本漢文資料を対象に、解題書を作成して、これまで未整理に放置されてきた研究教育の環境を整えると同時に、未発掘資料の目録化をはかる。
     
  「情報処理」班
日本漢文資料の基礎資料の提供と研究成果の発信における情報処理を担当する。
     
  「海外講座」班
国外向け講座として、国外集中講義・ネット授業を担当する。
     
           
  そうした教育研究活動は、シンポジウム形式の採用もさることながら、学習者研究者参加型のワークショップを主体にして、よりいっそう実りあるものにする。 なお、21世紀COEのニューズレター『雙松通訊』と研究誌『日本漢文学研究』は、その刊行を継続する。      
       

    W 日本漢文資料の所在・本文データベースの整理と公開

     
  「日本漢文文献目録データベース」の継続的な更新・維持をおこなうとともに、本文テキストデータを公開し、学界に情報を提供してゆく。      

 

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